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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)3597号 判決 1988年3月28日

控訴人(附帯被控訴人)

丸山哲夫

右訴訟代理人弁護士

土屋公献

被控訴人(附帯控訴人)

迫美津子

被控訴人(附帯控訴人)

丸山省三

右両名訴訟代理人弁護士

関智文

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人ら(附帯控訴人ら)の請求のうち、別紙不動産目録記載の土地建物について共有物分割を求める訴を却下する。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人ら(附帯控訴人ら)各自に対し各金七四万八四四三円を支払え。

附帯控訴に基づき、別紙預金等債権目録記載の各預金等債権について被控訴人ら(附帯控訴人ら)及び控訴人(附帯被控訴人)が各三分の一宛の返還請求権を有することを確認する。

被控訴人ら(附帯控訴人ら)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人ら(附帯控訴人ら)、その余を控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

(一)  原判決を取り消す。

(二)被控訴人ら(附帯控訴人ら、以下「被控訴人ら」という。)の請求のうち、別紙不動産目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)について共有物分割を求める訴を却下する。

(三)  被控訴人らの請求(当審で拡張した請求を含む。)を棄却する。

(四)  本件附帯控訴を棄却する。

(五)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する(ただし、原判決主文第三項は請求の減縮により「控訴人は被控訴人ら各自に対し各金七九万四九四三円を支払え。」に改める)。

(二)  附帯控訴に基づき、原判決主文第二項を次のとおり変更する。

別紙預金等債権目録記載の各預金等債権(以下「本件預金等債権」という。)について被控訴人ら及び控訴人が各三分の一宛の返還請求権を有することを確認する。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  訴外丸山アヤ(以下「アヤ」という。)は、昭和五九年九月一二日死亡し、被控訴人ら及び控訴人は、アヤの子として同人の権利義務を相続分各三分の一の割合で共同相続した。

(二)(1)  アヤは、本件土地建物を所有していたところ、同人の死亡により、被控訴人ら及び控訴人は、本件土地建物を持分各三分の一の割合で相続したので、本件土地建物は右三名の共有に属した。

(2) 共同相続人が分割前の相続財産を共同所有する関係は、民法二四九条以下に規定する通常の共有としての性質を有するから、各共有者は民法二五八条に基づいて分割請求することができる。

(3) アヤの死亡後本件土地建物の分割につき、控訴人は、相続開始直後に本件土地を売却することは将来地価が高騰することを考えると有利でないとして地価が高騰するまで他に処分することを保留する趣旨で本件土地を処分せず残しておきたい旨主張し、他方被控訴人らは、任意売却するなどして早期に公平な分割をすべきであると主張してその分割方法について見解の対立があったところ、被控訴人らは控訴人の意向を尊重し、三者間において一旦通常の共有関係にしたうえ、現実の分割は後日改めて協議する旨の黙示の遺産分割協議をし、本件土地建物につき昭和六〇年九月二〇日右三名共有の相続登記を了した。

(4) 本件土地建物は居宅とその敷地であって現物分割することが不可能であるから、競売に付してその代金を分配する以外に方法がない。

(三)  アヤは、本件預金等債権を有していたところ、右債権は可分債権であるから、アヤが死亡して相続が開始したことにより当然分割され、被控訴人ら及び控訴人が各三分の一の割合でこれを承継取得した。

(四)  控訴人は、別紙預金等債権目録記載2、(五)の普通預金口座から自ら所持していたキャッシュカード又は通帳、印鑑を用いて昭和五九年九月一七日金二〇三万七〇〇〇円、同年一〇月二〇日金三〇万円、同年一一月七日金一一万円、同年一一月二二日金二万円、同年一一月二六日金三万七〇〇〇円、昭和六〇年一月二六日金三万円、合計金二五三万四〇〇〇円を引き出し、昭和五九年九月一七日金一四万九一六九円を右普通預金口座に入金し、差額金二三八万四八三一円のうち被控訴人らの取得分各七九万四九四三円を領得した。

(五)  よって、被控訴人らは、控訴人に対し、共有物である本件土地建物について競売に付したうえ、その代金から競売手続費用を控除した金額を分割し被控訴人ら及び控訴人に各三分の一ずつ配当することを求め、本件預金等債権について被控訴人ら及び控訴人が各三分の一宛の金額の返還ないし払戻請求権を有することの確認を求め、不当利得金各七九万四九四三円ずつの支払いを求める。

2  請求原因に対する控訴人の認否及び主張

(一)  請求原因(一)は認める。

(二)(1)  同(二)、(1)は認める。

(2) 同(二)、(2)は争う。

(3) 同(二)、(3)のうち、被控訴人ら主張の相続登記がなされている事実は認めるが、その余の事実は否認する。

アヤの相続財産については本件土地建物を含めて被控訴人らと控訴人において誰が何を取得するかも決まっておらず、分割が確定した財産は全くなく全部未分割の状態にあり、遺産分割協議も未了であり、今後その協議を続行すべき状況にある。本件土地建物について昭和六〇年九月二〇日相続登記がなされ、被控訴人ら及び控訴人の三名が共有者として登記されているが、これは遺産分割協議の結果ではない。

相続財産の共有は基本的には民法二四九条以下に規定する共有としての性質を有するとしても、そのことから直ちにその分割が共有物分割請求手続によることにはならない。本件土地建物は遺産分割が未了であり、その分割は遺産分割手続によるべきであるから、被控訴人らの本件共有物分割請求は不適法である。

(4) 同(二)、(4)は争う。

(三)  同(三)のうち、別紙預金等債権目録記載2、(四)の預金をアヤが有していたことは否認し、その余は認める。右預金は控訴人固有の預金であり、遺産に含まれない。

(四)  同(四)のうち、被控訴人ら主張の預金の引出し及び入金があったことは認める。昭和五九年九月一七日の預金の引出し及び入金の手続はすべて被控訴人丸山省三(以下「被控訴人省三」という。)がし、控訴人と被控訴人迫美津子(以下「被控訴人美津子」という。)はこれに同意し協力した。右引出金をもって既に支出済のアヤの葬儀、法事関係の費用を精算し、各自立替分を受け取って残余金を分配した。その後の預金からの引出しはいずれも控訴人がしたが、これも香典返しや法事費用等に費やされた。したがって、控訴人は何ら不当に利得していない。

三  証拠<省略>

理由

一まず、被控訴人らの本訴請求のうち本件土地建物について共有物分割を求める訴の適否について判断する。

アヤが昭和五九年九月一二日死亡し、被控訴人両名及び控訴人がアヤの子として同人の権利義務を相続分各三分の一の割合で共同相続し、その結果同人が生前所有していた本件土地建物が右三名の共有に属することになったことは、当事者間に争いがない。

ところで、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的に民法二四九条以下に規定する共有と性質を異にするものではないが(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁参照)、共同所有の関係を解消するためにとるべき裁判手続は、前者の分割前の遺産の共同所有では遺産分割審判であり、後者の民法二四九条以下に規定する共有では共有物分割訴訟であって(最高裁昭和四七年(オ)第一二一号同五〇年一一月七日第二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五二五頁参照)、その間には制度上の差異が認められるのであり、遺産相続により相続人の共有となった財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではない(最高裁昭和五九年(オ)第五六九号同六二年九月四日第三小法廷判決・判例時報一二五一号一〇一頁参照)。

そこで、本件土地建物につき共同相続人である被控訴人両名及び控訴人間においてこれを民法二四九条以下に規定する通常の共有関係にする旨の黙示の遺産分割協議が成立したか否かについて検討する。

<証拠>によれば、以下の事実を認めることができる。

被控訴人両名と控訴人は、アヤの死後数回にわたり本件土地建物の分割について話し合ったが、控訴人は本件土地建物に自らが居住することを希望し、これを他に処分することに消極的な意見であったところ、被控訴人両名は本件土地建物を任意売却するなどしてその代金を公平に配分することを主張し、その分割方法について意見が対立して平行線のまま推移し分割の協議が調わなかった。そこで、被控訴人らは、昭和六〇年二月、東京家庭裁判所に控訴人を相手方として遺産分割の調停の申立てをしたが、控訴人が四回にわたる調停期日に一度も出頭しなかったため、右調停の申立てを取り下げた。その間、被控訴人らと控訴人は、昭和六〇年三月三日、調停外において本件土地建物の分割について話し合ったが、控訴人は、従前の主張を繰り返し、相続税については相続分に応じた三分の一を納付する旨言明し、同月一二日、練馬税務署長に対し遺産の分割状況は全部未分割であると記入した相続税の申告書を提出した。そして、被控訴人らもその頃それぞれの相続税の申告をした。被控訴人省三は、昭和六〇年九月、控訴人に対し電話で本件土地建物について共同相続登記をする旨伝えたところ、控訴人が「勝手にしろ」と答えたので、その了解を得たものと理解して、同月二〇日、本件土地建物につき昭和五九年九月一二日相続を原因として被控訴人両名及び控訴人の持分各三分の一の相続登記(所有権移転登記)を経由した(右相続登記がなされたことは、当事者間に争いがない。)。被控訴人らは、その後においても本件土地建物の分割については当事者間の話し合いで解決するのが妥当であると考え、昭和六一年四月頃再度東京家庭裁判所に控訴人を相手方として遺産分割の調停の申立てをした。しかし、控訴人は、ここでも四回にわたる調停期日に一度も出頭しなかった。一方、被控訴人らは、同年八月二一日、東京地方裁判所に控訴人を被告として本件土地建物につき本件共有物分割請求訴訟を提起し、同裁判所は、控訴人が口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面も提出しなかったため、請求原因事実を自白したものとみなして、同年一〇月二九日、被控訴人らの請求を認容する判決(欠席判決)を言い渡した。控訴人は右判決に対して控訴し、被控訴人らは右控訴後再度の遺産分割調停の申立てを取り下げた。

以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の事実によれば、アヤの遺産相続により被控訴人両名及び控訴人の共有となった本件土地建物の遺産分割については、右三者間で協議を重ね、被控訴人らにおいて二度にわたり調停の申立てをしたもののこれも取下げに終わり、未だ協議が調わず未分割の状態にあるものと認めるのが相当である。もっとも、被控訴人省三が本件土地建物について相続登記をした際控訴人において明示の異議を述べなかったことは右に認定したとおりであるけれども、これも被控訴人省三が電話で共同相続登記をする旨通告したのに対し控訴人が「勝手にしろ」と答えただけのものであって、これに被控訴人らがその後再度の遺産分割の調停申立てをしたことをあわせて考えると、本件土地建物につき共同相続登記がなされたからといって、これをもって直ちに右三者間において本件土地建物を通常の共有関係にするとの黙示の遺産分割協議が成立したものと認めるには十分でなく、他にこれを認めるに足る的確な証拠はない。

なお、家庭裁判所の遺産分割事件は、家事審判法九条一項乙類に規定する審判事項であって、調停が不成立となった場合には審判手続へ移行するものであるが(家事審判法二六条一項)、申立人が調停の申立てを取り下げた場合には、審判手続に移行することなく事件は終了し、また被控訴人らが控訴人において家庭裁判所における家事調停手続を無視し、これによる解決がえられず、調停申立てを取り下げたからといって分割前の遺産につき地方裁判所へ共有物分割を求める民事訴訟を提起することが許されることになるわけではない。

したがって、本件土地建物の遺産分割については共同相続人間に協議が調わないときにあたり、その分割は家庭裁判所の審判によるべきであるから、被控訴人らの本件共有物分割請求の訴えは不適法であり却下を免れないというべきである。

二次に、相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきところ(最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決・民集八巻四号八一九頁参照)、アヤが可分債権である本件預金等債権(ただし、別紙預金等債権目録記載2、(四)の預金を除く。)を有しており、同人が死亡し相続が開始したことにより右債権が当然分割され、被控訴人両名及び控訴人が各三分の一の割合でこれを承継取得したことは、当事者間に争いがない。

そこで、別紙預金等債権目録記載2、(四)の預金がアヤの遺産に属するものであるか否かについて検討すると、<証拠>によると、右預金はアヤが生前同目録記載2、(三)の預金とともに自己の金員を控訴人及び被控訴人美津子名義で大和銀行練馬支店に預け入れた預金であり、アヤはその預金通帳を住友銀行中村橋支店の貸し金庫に預けて保管していたことが認められ、右事実によれば、右預金の預金者はアヤであり、右預金は同人の遺産に属するものであるということができる。

控訴人は、右預金は控訴人固有の預金である旨主張し、当審における控訴人尋問の結果中にはこれに副うかのような供述部分があるけれども、これにつき裏付資料を欠き、また反対趣旨の被控訴人省三の本人尋問の結果に照らすと、にわかに採用することができない。

そうすると、本件預金等債権は、いずれもアヤの遺産であり、その相続の開始により当然分割され、これを相続分に応じて承継取得した被控訴人両名及び控訴人が各三分の一の割合でその返還請求権を有しているということになる。

三次に、被控訴人らの控訴人に対する不当利得返還請求について判断する。

別紙預金等債権目録記載2、(五)の大和銀行練馬支店のアヤ名義の普通預金口座から昭和五九年九月一七日金二〇三万七〇〇〇円、同年一〇月二〇日金三〇万円、同年一一月七日金一一万円、同年一一月二二日金二万円、同年一一月二六日金三万七〇〇〇円、昭和六〇年一月二六日金三万円、合計金二五三万四〇〇〇円が引き出され、昭和五九年九月一七日金一四万九一六九円が右預金口座に入金されたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、昭和五九年九月一七日の預金の引出し及び入金は、アヤの葬儀費用の精算及びその後の法要の費用を賄うために被控訴人両名及び控訴人の合意のうえでなされたものであり、三名とも大和銀行練馬支店に臨んだが、銀行側との接衝と入・出金の手続は被控訴人省三が行ったこと、控訴人は昭和五九年一〇月二〇日から昭和六〇年一月二六日までの間に被控訴人らに無断で五回にわたり合計四九万七〇〇〇円を引き出し、これに昭和五九年九月一七日に引き出した払戻金の残金一八八万七八三一円を加えた合計金二三八万四八三一円を保管していたこと、被控訴人両名及び控訴人は、右預金の払戻しとは別に、アヤが昭和五九年九月一〇日危篤状態になった直後に当面要する費用に当てるためとして住友銀行中村橋支店のアヤの預金口座から金六〇万円を引き出して各二〇万円ずつ分配し、同月一七日精算したところ、支出額は右金額の範囲内で納まったこと、右三名は更に同日アヤの右預金口座から金一〇〇万円を引き出して三人で分配したこと、控訴人は香典一二五万四〇〇〇円をもってアヤの葬儀費用及び四十九日の法要の費用にあて、自己の保管する預金払戻金の一部をもって香典返し(半返し)の費用一三万九五〇〇円(乙第四号証参照)にあてたが、その余の預金払戻残金二二四万五三三一円については葬儀・法事関係の費用にあてることなく、また被控訴人らとの間でこれを控訴人が取得するとの合意もないのに自己のものとしてこれを取得したこと、以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比して措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の事実によれば、控訴人は右金二二四万五三三一円の各三分の一に相当する各金七四万八四四三円(円未満切捨て。)を被控訴人らの各損失において法律上の原因なく不当に利得したというべきであるから、右各金員を被控訴人らにそれぞれ返還すべき義務があるといわなければならない。

四以上の次第であり、被控訴人らの本件共有物分割請求は不適当であってこれを却下すべきであり、これを認容した原判決は不当として取消しを免れず、不当利得返還請求は各金七四万八四四三円を求める限度で理由があるからこれを認容すべく、これを超える部分については理由がないからこれを棄却すべきであり、原判決中右の限度で認容した部分は相当であるが、これを超えて認容した部分は不当として取消しを免れず、附帯控訴に基づく本件預金等債権について返還請求権存在確認を求める請求は理由があるからこれを認容すべく、これにつき準共有持分権の存在確認を認容した原判決は不当として取消しを免れない。

よって、原判決を変更し、本件土地建物について共有物分割を求める訴を却下し、その余の被控訴人らの本訴請求を右の限度で認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舘忠彦 裁判官牧山市治 裁判官小野剛)

別紙不動産目録<省略>

別紙預金等債権目録<省略>

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